ニコン

F4

Nikon / F4

 1959年のNikon Fにはじまる「ニコンF一桁シリーズ」といえば,日本を代表する,いや世界を,いやこの世を代表する,高級小型カメラである。Nikon FおよびNikon F2は機械式制御のシャッターをもつカメラであったが,Nikon F3では電子式制御のシャッターが採用され,絞り優先AEが搭載された。Nikon F3では派生モデルとして,専用AFファインダーに対応したNikon F3AFというボディが発売(1983年)され,実用的なオートフォーカス一眼レフカメラを実現していた。しかし,レンズ側にピントリングを駆動するモーターを内蔵したNikon F3AFのシステムには後継機が発売されず,ニコンのオートフォーカス一眼レフカメラはボディ側にピントリングを駆動するモーターを内蔵させたNikon F-501AF(1986年)のシステムに変更された。Nikon F-501AFにつづいて,下位モデルのNikon F-401(1987年),上位モデルのNikon F-801(1988年)が発売された。
 Nikon F4は,満を持するかのように1989年に発売された,オートフォーカス一眼レフカメラである。ニコンの一眼レフカメラの最上位モデル(F一桁シリーズ)としてはじめて,電動巻き上げ機構を内蔵したカメラとなった。バッテリーパックが交換できるようになっており,巻き上げが比較的低速ながらコンパクトにまとまった状態として使用したり,やや大柄になってしまうが高速な巻き上げを利用できる状態として使用したりといった,使い分けも可能になっている。

 Nikon F4の最大の特長は,オートフォーカスに対応したことにある。
 オートフォーカス一眼レフカメラが登場したばかりのころは,オートフォーカスの動作はあまり速くなく,合焦に迷うような動きを見せることも少なくなかった。それでもモデルチェンジのたびに少しずつ改良は加えられてきたのであろう,ニコンでもF-801のころにはじゅうぶんに実用的なものになっていたと感じている。ピントのあう場所が中央部にしかないなど,後の機種にくらべて見劣りする面は多々あるが,Nikon F4のオートフォーカスは使い物にならないというわけではない。

 Nikon F4の別の魅力としては,レンズの互換性の広さをあげることができる。
 ニコンの一眼レフカメラのレンズマウントは,「不変のFマウント」と称しているものの,さまざまな機能が追加されたり変更になったりしてきた。レンズとボディとの組みあわせによっては,機能をフルに利用できなかったり,露出計すら連動しなかったり,そもそも取りつけができない場合もある。たとえば,この当時のオートフォーカスのボディに,この当時のAF NIKKORレンズを装着すると,機能をフルに利用することができる。しかし,マニュアルフォーカスのレンズを装着すると,露出モードに制約が生じる,といった具合だ。
 Nikon F4は,その点の互換性がもっとも広いボディの1つである。この当時のAF NIKKORレンズを装着したときにすべての機能を利用できるのは当然として,マニュアルフォーカスのNIKKORレンズを装着しても,プログラムAEやシャッター速度優先AEを含めたすべての露出モードをマルチパターン測光(評価測光)で利用できる。Ai連動ピンが可倒式なので,Ai方式以前のオートニッコールレンズを装着することもできる。さらには,Nikon F4より後の時代に発売された,AF-Sレンズ(ピントリング駆動のモーターがレンズに内蔵されたタイプのレンズ)をオートフォーカスで使用することも可能であり,さらにはNikon F3AF用のレンズもオートフォーカスで使用が可能である。これらの一部が可能なボディは多々あれども,これらがすべて可能なものは,Nikon F4だけである。
 Nikon F4は,ボディ外装がプラスチック製であることから,趣味的には低く評価されることもある。しかし実用的なカメラとして使うなら,(メンテナンスのことはさておいて)まだまだ魅力的なカメラであることに間違いはない。

Nikon F4, No.1367135
シャッタークォーツ制御横走りチタン幕
シャッター速度B,T,1〜1/2000スピードライト同調X接点 1/80sec
露出モードマニュアル,絞り優先AE
露出計TTL中央部重点測光,スピードライトTTL調光可能
ファインダー内情報LCDにシャッター速度とマニュアル露出時の露出過不足(-+)表示,絞り目盛直読
発売1989年 (F4E仕様は1991年)

 ニコンのオートフォーカス一眼レフカメラの最上位モデルとして発売されたニコンF4は,バッテリーパックの形状によって3種類に分類される。単3乾電池4本を使用するバッテリーパックMB-20を装着した状態は,もっともコンパクトな基本形である「Nikon F4」となる。同時期に発売された単3乾電池6本を使用するハイパワーバッテリーパックMB-21を装着した状態は「Nikon F4S」とよばれ,1秒あたり最大5.7コマの高速巻き上げモデルとなる。また,縦位置レリーズボタンも使えるようになる。後年に発売されたマルチパワーバッテリーパックMB-23では,単3乾電池6本で使用するほかに専用にNi-Cdバッテリーを使えるようになる。MB-23を装着した状態は「Nikon F4E」とよばれ,巻き上げ速度や縦位置レリーズなどは「Nikon F4S」と同等に使える。
 中古カメラ店などでは,「F4S」を見かけることがもっとも多く,「F4E」はあまり見かけることがないように感じている。