アルス

佐和式露出計算尺(初期型)

Sawa's Exposure Reckoner

 「佐和式露出計算尺」は,計算尺という名称があらわすように,直線状のものである。季節や時刻,被写体のシチュエーションなどさまざまな要素があうようにカーソルを動かしていくことで,適切なシャッター速度や絞りの値を決めることができる。その最初のモデルが発売されたのは1933年3月であり,関式サロン露出計のさいしょのモデルより5年以上早い。
 この露出計は,名称に「佐和」という名前が入っていることからもわかるように,大正時代ころからカメラや写真に関して多くの著作活動をおこなってきた,佐和九郎氏がかかわっている。佐和九郎氏は,「係数法」といって,撮影に関するさまざまな状況を数値であらわし,その単純な加減算によって適切な露光条件を導きだす方法を改良してきた(そのような方法を発明したわけではない)。そして,その計算を簡略化できるように,逸見(へんみ)製作所の宮崎治助氏が計算尺の形に設計した。逸見製作所は,計算尺の製造元として,著名である。そして,写真関係の出版社であるアルスから発売された。そのためこの製品には,「Sawa」(佐和九郎)という名前のほかに,「HEMMI」(逸見製作所)や「ARS」(アルス)という名称も記載されている。

 佐和式露出計算尺は,裏面に「係数表」が記載されている。佐和九郎氏は,実際の撮影条件や流通している乾板,フィルムなどを実際に使用し,その値をつねに改良し続けていたようである。そして,1940年に「佐和式係数露出法 紀元2600年改訂表」というものを発表している。これを境に,「佐和式露出計算尺」は,「初期型」と「新型」に分類できる。また,第2次世界大戦後の1951年にもこの表記を改訂した「最新型」が発売されている。このように,佐和式露出計算尺は大きく3つのモデルに区分できる。
 また,小規模な改訂も頻繁におこなわれていたようである。アルスが発行する雑誌「カメラ」に掲載されている広告を参照すると,1936年2月ころには係数表の改訂サービスが用意されていたことを知ることができる。具体的には「乾板フイルム係数表(昭和十年十一月改訂)御希望の方は郵券二銭添付御申込次第送呈致します」のように表現されている(*1)。

佐和式露出計算尺(初期型)の使い方

(例)4月の11時ころ,晴天のときに,DIN 18°(現在のISO 50に相当)のフィルムで明るい風景を撮る。

  1. 裏面の表「北緯35度に於ける光度の係数」で,撮影するときの季節(月)および時刻の係数を求める。撮影日が4月で撮影時刻が午前11時だとすれば,光度の係数は「0」である。
  2. 表面で(光度)の係数と,撮影時の天気をあわせる。光度の係数が0の条件で,晴れているとすれば,(光度)の0と「晴」とをあわせる。
  3. 裏面の表「フィルム乾板の係数」で,フィルムの感度に対応する係数を求める。係数「0」が,DIN 18°/10に相当している。
  4. 表面で可動式の赤線を動かし,(乾板フィルム)の0にあわせる。
  5. 可動式の赤線を動かさないようにして,使用する絞り値を赤線にあわせる。絞りをF8にして撮影するとすれば,赤線に8をあわせる。
  6. この状態で,被写体とシャッター速度の関係を読み取る。被写体が,係数3の「展開街路」「普通風景」に該当するならば,シャッター速度は1/150秒ということになる。
SEKI'S SALON EXPOSURE METER
測光種類計算盤式
発売1933年3月(ここに掲載したものは1936年9月ころの版)

*1 アルス「カメラ」1936年11月号 (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/1501814/1/22