つまり,名称が「スタジオ"S"」→「スタジオ」→「スタジオS」と変わっており,価格も変更されている。もしかすると,初期のものは「セコニック スタジオ」が正式な製品名で,そこに「ブロックウェイ model S」の「S」を付記していただけかもしれない。その後,モデルチェンジで「セコニック スタジオS L-28」にあらためられた,という可能性がある。ここに取り上げた製品は「SEKONIC Studio S」ではあるが「L-28」という表記はないので,どちらに該当するのか,はっきりしない。 SEKONIC L-8でも感じたが,この当時のセコニックは,自社製品の名称や型番などをぞんざいに扱っていたとしか思えない。
露出計は,大きく2つに分けられる。被写体に反射した光を測定する「反射光式」と,被写体にあたる光をじかに測定する「入射光式」である。セコニック「スタジオ」シリーズは,入射光式の露出計である。
セレン光電池を用いて,その発電量により指針を動かすため,電源等は不要である。フィルム感度を設定し,指針の表示にダイアルをあわせれば,適正なシャッター速度と絞りの組みあわせを知ることができる。入射光式であるため,被写体の色や反射率などに左右されず,適正な露出を考えやすい。
入射光式露出計では,受光部に光を拡散させるためのパネルがつけられている。当初,そのパネルは平板なもので平らな被写体の測光に好都合とされていた。後に,立体的な被写体を測光するのに好都合とされる,半球状のものが発明された。これは,1940年にD. Norwood氏が特許を得ている。
Norwood氏の露出計(NORWOOD Director)は,のちにBrockwayが生産するようになった。1957年からは日本のセコニックがこの露出計を生産する権利を得て,「セコニック スタジオ"S"」として発売された。
SEKONIC Studio Sの取扱説明書の表紙は,「SEKONIC Studio」という名称と「BROCKWAY model S」の名称とが,混在したものになっている。
その説明書の冒頭部には,次のような文章がある。
(引用開始)
この説明書は、(中略)チャールズ・コール教授に、ブロックウェイ・カメラ・コーポレーションが、特に「ブロックウェイ・メーター」の為に、執筆を依頼したものでありまして、このたび米国三大露出計の一つに数えられるブロックウェイ露出計を「セコニック・スタジオ」として、発売するに当り、チャールズ・コール教授の原著より訳出したものであります。
(引用終了)
操作説明のために描かれた露出計には「SEKONIC」ではなく「BROCKWAY」と記されており,測光のようすを示した写真に写っているカメラマンやモデルさんは一般的な日本人の姿ではなく欧米人であるように見える。また,製品名も「セコニック・スタジオ」ではなく「ブロックウェイ」と表記しているなど,この説明書はまさに原著を訳しただけのもののようである。
この露出計の名称や型番については,はっきりしない点もある。
露出計の裏面には,「SEKONIC Studio S」と「MODEL-S」という表記がある。したがって,この露出計の名称は「セコニック スタジオS」でよいだろう。セコニックの露出計には「L」ではじまる型番が設定されているが,この露出計にはそれらしき記号は,記されていない。
ところが取扱説明書の表紙では,露出計の名称は「SEKONIC Studio」であり,「S」は「BROCKWAY」のほうにつくモデル名である。本文中でも,「スタジオ」と「スタジオS」の名称が混在している。
広告でも,名称の表記にブレが見られる。
名称について,「アサヒカメラ年鑑」に掲載された広告を見てみよう。
1958年版にはこのモデルは掲載がなく,1959年版で「セコニック・スタヂオ"S"」(¥7,500)が掲載される。日本国内では,1958年半ば以降に発売されたものと思われるが,このときの名称は「スタヂオ"S"」である。
「日本カメラ」1960年3月号でも,「スタジオ"S"」(¥7,500)となっている。
つぎに,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」を見てみよう。
vol.3 (1960年)に記載があり,そこでの名称は「スタジオ」(¥7,500)となっており,「S」がない。
vol.12 (1963年)からvol.21 (1965年)では「スタジオS L-28」という表記になり,価格が¥5,700になっている。
vol.24 (1966年)では,改良された「スタジオデラックス L-28c」(本体¥8,800)があらたに記載され,そこに「スタジオS」(本体¥7,500)も付記されている。vol.25 (1966年)では「スタジオデラックス L-28c」の価格が本体¥7,400,白色板¥600に改訂されている。「スタジオS」も,本体¥6,200,白色板¥600になっている。
vol.41 (1971年)では,それぞれ「スタジオデラックス L-28c2」(¥11,200),「スタジオS2 L-28A2」(¥9,200)にモデルチェンジされている。
その一方で,セコニックのWebサイトでは,「スタジオS」に対して「L-28A」という型番が示されている(*1)。ただ,この「A」が付記された型番は,1970年代以降に後付けされたものに思える。
つまり,名称が「スタジオ"S"」→「スタジオ」→「スタジオS」と変わっており,価格も変更されている。もしかすると,初期のものは「セコニック スタジオ」が正式な製品名で,そこに「ブロックウェイ model S」の「S」を付記していただけかもしれない。その後,モデルチェンジで「セコニック スタジオS L-28」にあらためられた,という可能性がある。ここに取り上げた製品は「SEKONIC Studio S」ではあるが「L-28」という表記はないので,どちらに該当するのか,はっきりしない。
SEKONIC L-8でも感じたが,この当時のセコニックは,自社製品の名称や型番などをぞんざいに扱っていたとしか思えない。
*1 カタログ,ソフトウェア,取扱説明書のダウンロード (株式会社セコニック)