たまたま入手した,古いレンズである。入手時には木製のボードに固定されていたので,組立暗箱で使われていたものと考えられる。しかし,距離目盛が刻まれており鏡胴を前後させる機構の痕跡があることなどから,本来はレンズを回転させることでピント調整ができるようになっていたはずである。このレンズは,大判カメラ用レンズというよりも,当時の小型カメラに組みこまれていたレンズなのかもしれない。
本体には「GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III No.10643」と読める文字が刻まれていたことから,古いゲルツのレンズであると判断できる。焦点距離を示す数字は刻まれていないが,太陽光が焦点を結ぶ距離から,このレンズの焦点距離はおおよそ120mmであると判断できる。
また「6.3」という文字も刻まれているので,開放F値はF6.3であると判断できる。鏡胴の側面には,スリットがある。正面に6.3から40までの値が刻まれている(6.3,7,8,11,16,22,40)ことからは,このスリットからなんらかのレバー状のものが出ており,レンズ内の虹彩絞りを設定できていたのかと想像できるが,そのような機構の痕跡らしきものは見あたらない。一方,レンズ内には薄い板をはめこむような溝があるので,ここに穴の開いた絞り板を挿入するようになっていた可能性もある。しかし,正面に刻まれた絞り値らしきものと整合しない。この部分の機構が本来どのようになっていたのかは,判断できない。
イメージサークルの大きさについては,実際に大判カメラにあてがってみたところ,いわゆる手札判サイズはじゅうぶんにカバーできそうである。カビネ判サイズは,カバーしていないように見える。
たまたま入手した,古いレンズである。入手時には木製のボードに固定されていたので,組立暗箱で使われていたものと考えられる。しかし,距離目盛が刻まれており鏡胴を前後させる機構の痕跡があることなどから,本来はレンズを回転させることでピント調整ができるようになっていたはずである。このレンズは,大判カメラ用レンズというよりも,当時の小型カメラに組みこまれていたレンズなのかもしれない。
本体には「GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III No.10643」と読める文字が刻まれていたことから,古いゲルツのレンズであると判断できる。焦点距離を示す数字は刻まれていないが,太陽光が焦点を結ぶ距離から,このレンズの焦点距離はおおよそ120mmであると判断できる。
また「6.3」という文字も刻まれているので,開放F値はF6.3であると判断できる。鏡胴の側面には,スリットがある。正面に6.3から40までの値が刻まれている(6.3,7,8,11,16,22,40)ことからは,このスリットからなんらかのレバー状のものが出ており,レンズ内の虹彩絞りを設定できていたのかと想像できるが,そのような機構の痕跡らしきものは見あたらない。一方,レンズ内には薄い板をはめこむような溝があるので,ここに穴の開いた絞り板を挿入するようになっていた可能性もある。しかし,正面に刻まれた絞り値らしきものと整合しない。この部分の機構が本来どのようになっていたのかは,判断できない。
イメージサークルの大きさについては,実際に大判カメラにあてがってみたところ,いわゆる手札判サイズはじゅうぶんにカバーできそうである。カビネ判サイズは,カバーしていないように見える。
いくつかの書籍やWeb上の記事を参照しても,このレンズと同定できるものの記載が見つからなかった。DOPP ANASTIGMATは,後にDAGORとよばれることになるレンズのシリーズ,DOPPLE ANASTIGMATの異名のようで,この名称のレンズの存在は,いろいろと報告されている。しかし,それらの開放F値はF6.8のものばかりで,F6.3のものが見られない。
詳細は不明であるが,わかった範囲のことについて,以下に示す。
まず,ゲルツのレンズに関するシリアルナンバーについて,Web上に公開されていたものの1つに,つぎのようなものがあった。(*1)
up to 5,000 -- up to 1891
30,000 -- 1896
100,000 -- 1900
200,000 -- 1908
300,000 -- 1915
400,000 -- 1920
500,000 -- 1922
600,000 -- 1923
750,000 -- 1926
これにしたがえば,No.10643のレンズの製造時期は,1891年から1896年の間となる。
このレンズが発売されたころに近い時期の書籍として,「写真鏡玉」(藤井光蔵・藤井竜蔵 著,浅沼商会,明41.6)(*2)を参照した。「ゲルツ會社」に関する記述として,1880年代にF6.3というレンズが存在したことが記されている。また,1893年に「二重アナスチグマット」を市場に出したということが記されている。このことから,No.10643のこのレンズの製造時期は,1893年以降であると判断できる。
※DOPP ANASTIGMATを名乗るレンズは2群6枚であるとされるがこのレンズについては未確認。
Kodak DCS Pro 14n, GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III 120mm F6.3
Kodak DCS Pro 14n, GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III 120mm F6.3
ベローズを利用して,ライカ判サイズのデジタル一眼レフカメラに装着して試し撮りをした例である。前ボケも後ボケも,ごく自然に感じられる。接写域での撮影でも,ふつうにまっとうに写っている。暗いレンズなので被写界深度が深く,ピントあわせは容易ではない。しかし,写りについては問題がなく,さすが「ANASTIGMAT」というところであろうか。
*1 https://www.largeformatphotography.info/forum/showthread.php?41822-C-P-Goerz-Berlin-Serial-numbers-
Large Format Photography Forumの書き込み(4つめのコメント) この表の原典は,未確認。
*2 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/902527
「写真鏡玉」(藤井光蔵・藤井竜蔵 著,浅沼商会,明41.6)86コマ目(160ページ)前後 国立国会図書館デジタルコレクション