ニコン

ズームニッコール オート 43-86mm F3.5

Nikon / Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5

 ライカ判のカメラにおいて,50mmレンズは「標準レンズ」とされている。50mmをはさんで,短焦点側にも長焦点側にも焦点距離を連続的に変化させられるレンズは,「標準ズームレンズ」とよばれる。世界ではじめて商品化された標準ズームレンズは,フォクトレンダのBESSAMATIC用に発売されたVoigtlander-Zoomar 36mm-82mm F2.8とされている。カバーする焦点距離の範囲や開放F値などスペック的には魅力的なものになっているが,このレンズはとても大きく重いため,少なくとも「標準レンズ」のかわりに使えるようなものではなかった。
 ここで紹介するZoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5は,日本ではじめての「標準ズームレンズ」とされる。スペックの面ではVoigtlander-Zoomar 36mm-82mm F2.8に及ばないものの,小型の中望遠レンズ程度の大きさ,重さに抑えられており,「標準レンズ」のかわりに使えるという意味では,世界ではじめての実用的な「標準ズームレンズ」といってもよいのではないだろうか。

 Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5はもともと,レンズシャッター式一眼レフカメラ「ニコレックス」用のレンズとして開発されたとのことである。レンズ交換ができない「ニコレックス」には,「標準レンズ」ではなく「標準ズームレンズ」を装着しておくのが便利だろう,という発想になったものと思われる。このズームレンズは「ニコレックス」に装着されるだけでなく,Fマウントの交換レンズとしても発売されることになった。
 Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5は,周辺の描写がやや甘かったり,歪曲が目立ったりするなど,けっして「すばらしい」性能をもっているわけではない。もともとが廉価版カメラ用のレンズとして企画されたために,小型軽量かつ安価なことが優先されたのかもしれない。それでも,ズームレンズといえば大きな望遠系のレンズしかなかった時代においては,コンパクトで安価なためによく売れたそうである。そして,ズームレンズの便利さを,多くの人に伝えることにつながったと考えれば,カメラの歴史においてぜったいに忘れてはならないレンズの1つになるのではないだろうか。

Zoom-NIKKOR Auto 43mm-86mm F3.5, No.445330
焦点距離43mm-86mm 口径比3.5
レンズ構成7群9枚
マウントニコンF カニ爪連動
発売1963年1月発売