ツァイス・イコン

イコンタI

ZEISS IKON / Ikonta 520/2

 イコンタは,「最初のスプリングカメラである」と言われる。
 イコンタが発売された当時の小型カメラは,フィルム(あるいは乾板など)のはいった部分とレンズとが蛇腹で結ばれていた。蛇腹のために,じゅうぶんな大きさの暗箱を形作りながらも折り畳むときわめて小型になるという機能を実現していた。スプリングカメラとは,ボタンを押すだけでレンズ部分が立ち上がり蛇腹が伸びて撮影可能な状態に組みあがるタイプのカメラをいう。ワンタッチで組みあがるタイプのカメラはイコンタ以前にも実現されていたが,イコンタがよく売れて世界中に広まり,さらにはそれを模倣するカメラも多くあらわれたことから,イコンタがスプリングカメラの代表としてみなされることになったようである。
 イコンタそのものにも数多くのバリエーションがあり,フォーマットと距離計の有無で区分される。Ikonta 520/2は,6×9判のフォーマットで,距離計をもたない。Ikontaとしての,最初のモデルである。

ZEISS IKON Ikonta 520/2, No.
レンズNovar 10.5cm F6.3 (3枚構成)
シャッター速度B, T, 1/25, 1/50, 1/100 (DERVAL)
ピント調節目測式
フィルム送りノブ巻き上げ,赤窓式
画面サイズ6cm×9cm 発売1929年

ZEISS IKON Ikonta (520/2), Novar 10.5cm F6.3, ACROS

 スプリングカメラは,折り畳むときわめてコンパクトになる。だから,いつでも気軽に携帯できる。それでいて,6×9判という大きなサイズの写真を撮ることができる。このカメラに。ツァイスがどうのこうのだとか,ドイツの技術がどうのこうのだとかいった,余計な修飾語は必要ない。そんな薀蓄など,どうでもよい。いつでもどこでも大画面の撮影ができる,その事実が最大の魅力であり,それさえあればじゅうぶんだ。

ZEISS IKON Ikonta (520/2), Novar 10.5cm F6.3, ACROS

 レンズもシャッターも廉価版だが,3枚構成レンズは理屈上,最低限の補正ができることになっている。シャッター速度は3段階しか選べないが,屋外の日中で撮影するにはじゅうぶんな範囲をカバーしている。そして多少の難点は,フィルムの大きさがすべてカバーしてくれる,と言ってもよい。フォーマットの大きさは,正義である。